相続で一番もめるのは遺産2000万円程度

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更新日時:2012年01月19日はてなに追加MyYahoo!に追加del.icio.usに追加

相続で一番もめるのは遺産2000万円程度

カテゴリー:遺言・相続ニュース

このところ金融機関や百貨店などで、遺産相続に関する講座が多く開催されるようになりました。こうしたセミナーで講師を担当していると、受講者の方からよく、こんなご指摘をいただきます。「相続争いなんて、一部のお金持ちの話でしょ?」  たしかに、映画やドラマなどの相続がらみのストーリーでは、莫大な遺産を巡って相続人たちが愛憎劇を繰り広げます。また著名な経済人や芸能人など場合も、大規模な資産の相続をめぐる臆測が語られたりします。  しかし「相続争いは一部のお金持ちの話」という先入観は、はたして事実なのでしょうか。私が司法書士として多くかかわった経験からすると、相続でトラブルとなるケースは、遺産総額で2000万~3000万円程度が多く、決して一部の資産家に限った話ではないのです。遺産相続のトラブルは、誰の身にも起こるのです。  実際、私が目にしたこんな事例があります。 ケース(1)  一人暮らしの母親(75)が亡くなり、遺産として姉弟に自宅が残された。 弟「お母ちゃんがなくなってもう1年や。俺んとこも、この1年でえらい数の取引先が潰れてしもた。姉ちゃん、ぶっちゃけて言うとな、俺の商売もしんどいねん。今年は姉ちゃんとこの娘、大学出るやろ。そこで相談やけど、お母ちゃんが残した遺産はこの家以外にはないから、売ってしもてお金に変えたいんや。駅前の不動産屋のおやじに聞いたら、家屋はほとんど価値がないが、土地は2000万円くらいにはなるやろと言うてた。姉ちゃん、この家、出てくれへんか?」 姉「あんた、それが一つ屋根の下で過ごした肉親にかける言葉か! あの暴力夫と別れて実家へ帰り、苦労して子供を女手一つで育ててきたのに、それを知っててよくも……」 弟「それとこれとは別の話や。法律的に言うたらお母ちゃん名義のこの家は、姉ちゃんとおれの半分ずつや。うちも息子が私立の大学行ってて金がめちゃくちゃかかるし、わかってくれやぁ」 姉「商売が苦しいて、男やったらなんとかしぃやっ! だいたい、お父ちゃんとお母ちゃんの思い出がいっぱい詰まった家を簡単に売るなんて、情けないわ。あんたと話もしたないし顔も見たない。はよ出て行きっ!」 ケース(2)  妻に先立たれた父親(82)が亡くなり、遺産として定期預金が兄弟に残された。 兄「今日で四十九日の法要も無事に終えたなあ」 弟「それはそうと親父の現預金は全部でいくら残ってたんだ? 家は借家だったから遺産といえば、銀行預金くらいしかないだろう。退職金が2500万円ほどあったはずだ。おれが相続する分がいくらあるのか、知っておきたいんだ」 兄「何言ってるんだ。親父は最後の1年、デイケアやら入院やらで大変だったのは知ってるだろ。医療費だけじゃなく、病院生活のこまごまとしたものや、介護や看病のための出費で、預金なんか残るはずがないだろう」 弟「そんなことあるわけないじゃないか。親父は年金だって受け取ってきたはずだ、残高がゼロだなんて誰が信じるか」 兄「ここでこんな議論しても仕方ない。後日、何にどれだけ使ったという明細を送るから、今日のところはそんな話はよせ」 弟「俺もきちんと対応させてもらうぞ。もらえるものはもらうつもりだ。金が無いなんて通用すると思うなよ、兄貴」 私が知る限り、これらの姉弟、兄弟は仲が悪いということもなく、時節ごとの交流もありましたが、遺産相続のトラブルが元で一時、絶縁状態になってしまいました。  こうしたケースは私のところに持ち込まれる相続トラブルのごく一部ですが、大半はこの事例のように、遺産総額は2000万円から3000万円程度で、ごくごく普通のサラリーマンや主婦などが、ある日突然、トラブルの渦中に放り込まれます。  こうした話を裏付ける公的なデータがあります。最高裁判所事務総局家庭局が出所の「遺産分割事件で扱う財産額(平成19年)の内訳について」という資料です。この統計は、1年間に裁判所に持ち込まれた相続争いが、一体いくらぐらいの価格帯の遺産で争われていたのかを裁判所がまとめたものです。算定不能・不詳のものを除いた案件のうち、相続財産額の内訳は次の通りです。 裁判所に持ち込まれた遺産分割案件のうち、実に73.1%が、5000万円以下の財産規模の相続について起きているのです。トラブルになるのは2000万~3000万円が多いという私の実感とも合っています。さらにいえば、1000万円以下、つまり数百万円という身近なレベルで争われたケースだけでも、全体の30%近くを占めているのです。  人間同士ですから、兄弟や親せきの間でも、感情のもつれが口論に発展し、本格的な、相続争いが起きるというのは分かります。しかし、その遺産の総額は5000万円以下が約4分の3をも占めているという現実は、多くの方にとって予想外ではないでしょうか。老後の暮らしのために自分の手元に残した資産が5000万円までのラインだった場合、統計上は「一番揉めそうな層」にあたってしまうのです。 では、資産の多い方は、相続でもめない、いわゆる「金持ちけんかせず」なのか。現実は必ずしもそうではありません。もう一度、さきほどの裁判所の資料を見てみましょう。統計では遺産5000万~1億円の層のトラブルが14.3%、1億~5億円が7.7%、5億円超が0.6%です。合計すると遺産5000万円以上のトラブルは全体の22.6%となります。  総務省と国税庁の資料によれば、平成19年の1年間に亡くなった方は、110万8334人。このうち遺産の相続税の申告があった方は4万6820人です。単純に考えると、亡くなった方のうち、4.2%の方が相続税の申告対象となる財産を保有していたことになります。平成19年当時、相続税が非課税となる基礎控除額として5000万円の枠が設定されていました。遺産が5000万円を超えなければ、相続税の対象とはなりません。  つまり、5000万円以上の遺産を受け継いだ方の割合は4.2%ですが、裁判までのトラブルに発展したケースは22.6%です。もちろん完全に連動する数字ではないですが、遺産5000万円以上の層でも、トラブルは決して少なくないといえるのです。  というわけで、「遺産相続争いなんて、一部のお金持ちの話なのでしょう?」というご質問には、「いいえ、一部のお金持ちの話ではないですよ。たとえ数百万円というレベルでも、争いは起きます。家庭裁判所でいちばん多いのは、むしろ1000万~5000万円の層です」というのが答えです。だからといって一部のお金持ちがトラブルを免れるという話でもありません。お金持ちはお金持ちなりに、裁判所にお世話になるリスクは低くないのです。

参照ニュースURL

http://www.nikkei.com/money/features/17.aspx?g=DGXNMSFK1201K_12012012000000&n_cid=DSTPCS008&df=1

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