更新日時:2014年05月17日



認知症鉄道事故から学ぶこと - 監督責任者があなただったら - 西成荻【BLOGOS】
カテゴリー:後見関連ニュース
2014年4月24日に出た名古屋高裁での認知症鉄道事故の控訴審判決から、介護支援を提供する私たちは何を考えるべきか? 「裁判所は認知症のことがわかっていない」「認知症の人を閉じ込めろというのか」「国の方針と相反するではないか」などなど感情的な意見が目につくが、むしろ、Aさんのような被害を起こさないように支援者である私たちも真剣に考え、対策を練ることが大切ではないか?
◎まずはプロセスを見つめたい
認知症またはその疑いのある人が列車にはねられるなどした鉄道事故が、2012年度までの8年間で少なくとも149件あり、115人が死亡していたことが分かった。事故後、複数の鉄道会社がダイヤの乱れなどで生じた損害を遺族に賠償請求していたことも判明した。当事者に責任能力がないとみられる事故で、どう安全対策を図り、誰が損害について負担すべきか、超高齢社会に新たな課題が浮上している。 毎日新聞社 2014年1月12日(日)
損害賠償請求となる事例と、ならない事例にはどんな違いがあるのか?
すべての情報を正確に把握できない状態で「認知症」と一括りにし、自分たちの経験による推測だけで結論を出すことは危険である。なぜなら結論に至るまでには多くのプロセスが隠れていて、そこには大切な事項が含まれているし、それを見つめることが大切であるからだ。
では、裁判に至るまでにはどんなプロセスがあったのか? それは当事者と直接の関係者にしか本当のところは明らかではないため、その後の報告を期待するしかない。
◎裁判内容から考えうる「予見可能性」と「監督責任」
判断能力低下のため本人に対しては責任能力が問えず、いわゆる監督責任が発生する。では、誰がその責任を負うのか? 今回は妻及びその家族とされているが、もしAさんのような事件が利用者様へのサービス提供中に発生したらどうなっただろうか?
●訪問介護中でお風呂掃除中に本人が外出し、事故に遭ってしまう。
●通所介護の送迎待ちのときに事故に遭ってしまう。
こういったケースは介護職の読者の皆さんなら容易に想像できるだろう。
では、監督責任はその現場にいた職員に向けられるのか? もしくは、ケアマネジャーや地域包括支援センターに問われるのか? あるいは、成年後見人が任命されていたら、成年後見人が責任を問われるのか?
今回の一審判決で「徘徊歴が2回ある」ということで「事故は予見できた」と判断された。認知症が進行し徘徊歴がある方でも、家族や関係職種が協力して、本人の望む在宅生活を継続されていることは多いが、そういう方々に対しては、「事故は予見できる」という前提にならざるを得ない。
もちろん、徘徊することは予見できるのだが、電車事故などの具体的重大事故に関してはどこまで想定できるのか? 地域によっても異なるので、一度事業所で検討していただきたい。
「予見できる」前提で、対策をどこまで行うのか? という大きな課題を事例ごとに検討し、できる限り進めていくことが求められる。ここで、「24時間365日監視はできない」と言ってしまうと、在宅介護の根底となる「利用者の住み慣れた自宅での生活」を守ることができなくなるので、できることを1つずつ積み上げる必要があると、今一度理解していただきたい。
◎予見可能なこととは?
1. 対人援助者としての予見可能性
1) リスクマネジメントは複数で行う
介護支援専門員もサービス事業所も「アセスメント」を行う。その際に、リスクを1人で想定しないことである。リスクは経験から学ぶことが多いため、経験の多い人たちの知恵を借りよう。
2) リスクの優先順位付け
次に、あげたリスクに対して優先順位をつけ、その順位ごとに対策を考えたい。ここで大切なのは、「生命に危険性がある条件」と「利用者・家族の望む暮らしの条件」が相反する場合があるという点だ。言い方が強い人や影響力のある人の意見が通りやすいのだが、それだけは避けていただきたい。
「生命の危険性」と「望む暮らし」のギャップを埋めていくのが、対人援助技術の大切な点で、このギャップについて、まず関係者間で納得のいくまで議論しよう。そこで初めて関係者として「予見可能性」を実感し、理解できる。
例えば、認知症の方が自宅で生活されていて、最近ボヤが発生した。この場合の予見可能性は、「火災」である。だが、なぜ火災が起こるのかを考えずに、火災になる可能性をすべて制限してしまうと、本人らしい暮らしは急激に変化し、周辺症状が強くなることが予想される。タバコが好きで、今回のボヤが発生したとしたら皆様はどうするだろうか? 私が以前対応させていただいた事例では、布団・カーペット・カーテンをすべて「防炎」用に変更し、火災警報器の設置を行い、本人には灰皿に水をためる習慣を持ってもらい、家主・近所とも相談して喫煙を継続できるようにした。
2. 具体的に想定してみる
認知症の方が何らかの目的で外出し、自宅に帰宅できない状態が想定されるとしよう。ここで想定されるリスクは、自身が被害者になる場合と加害者になる場合である。
「自身が被害者になる場合」
1) 帰宅できないことによる精神的不穏と事故(交通事故、電車事故、転落事故、転倒事故など)。
2) 帰宅できないことが長時間続くことによる夏場の脱水・低栄養、冬場の低体温や凍死。
3) 彷徨う場所が山間部の場合は野生動物による傷害。
4) 暴漢に襲われたり、所持金を窃盗される場合。
などが考えられる。これらは地域性が強く反映されるので、さらにどの道でどのような事故に遭いやすいのかなど、具体的に本人の通常の行動範囲から想定してほしい。
「自身が加害者になる場合」
1) 窃盗
食事や水分摂取をしたいという想いから、支払いをしないで結果的に万引きになるケースや食堂での無銭飲食のケースなどが想定される。
2) 不法侵入
疲れたり不安から身を守ろうとして、他人の家や関係者以外立ち入り禁止区域へ侵入(空港滑走路への侵入事故なども記憶に新しいと思います)することなどが想定される。
3) 暴言暴行
周辺症状が強く発生している場合、身を守ろうとして暴言暴行をしてしまうことが想定される。
4) 道路交通法違反
高速道路を逆走する事件をよく新聞紙上で見かけるが、車だけではなく自転車、バイクなどによる道路交通法違反も想定される。
5) 交通事故
今回のAさんのように結果的に賠償責任を問われることがある。信号を赤信号で渡ってしまい、それを避けようとした車が事故を起こす場合なども想定される。
「自宅に帰宅できない状態」だけを想定してもこれだけのリスクが考えられる。地域性を盛りこむとさらに具体的になると思うので、事例に当てはめてさらに検証していただきたい。
◎具体的な対策はどうするか?
対策1. 共有
家族が前述のような想定を行えない場合、他人から説明されたことを素直に聞き入れることができるのか?
まずは、専門家が想定される課題を提示することになるだろう。その際には、家族と信頼関係のある人でなければ、受け入れは困難であろう。病気の告知を受ける場合を想定してみると理解しやすい。
対策2. 優先順位ごとのリスクヘッジ
1) リスクの優先順位は、本人を最もよく理解している家族と一緒に決めていきたい。一緒に考えるプロセスそのものが大切であることを理解しよう。
また、サービス提供している側としては、すぐにモノやサービス提供を対策として想定さしがちだが、まずはケアプランが適正であるかどうかを関係者と協議し、そのなかに課題が存在しないか明確にしたい。
2) 対策を実行するチームとチームリーダー、ルールを決める。
日々の情報を集約し、随時モニタリングでき、その結果を周知徹底したり修正できるチームとルールを決めよう。
3) アクションプラン作り
優先順位の第何位まで実行するか決め、留意事項も決めよう。プランの目標と期間を関係者が明確に知り、実行できることが大切だ。
対策3. 役割分担と目的の明確化
上記のアクションプランができたら、役割を明確にしよう。一人にすべてを任せることは危険なので、関係者で役割分担をしてほしい。
大切なことは、「夜間と週末」を意識することだ。
役割には、「いつ、だれが、何を、どうやってするのか」を明確に。また、その役割を実行することで「どうなるのか?(結果予測)」を明確にしよう。「目的」を明確にし、「この役割をするとどうなるの?」と聞かれたら、すぐに答えられるようにしておきたい。
独居の場合は家族の協力が望めないことが多いため、地域の民生員、ボランティアなど地域にある協力体制をフルに活用しよう。また、近隣の方々に協力してもらうことも大切だ。
地域の方に協力いただく場合は、以下の注意点を記載するので、参考にしていただければ幸いである。
◎地域包括ケアとして、何を構築すべきなのか?
今回のAさんの事故は、地域の見守り体制があれば予防できたのか?
これは著者にもわからない。もし地域の方すべてがAさんの予見可能性を把握し、一人で外出された場合の対応方法が周知徹底されていて、24時間365日このルールを実行できていれば、予防できたかもしれない。
だが、これは果たして現実的か?
地域には他人とつながることを「望む人」と「望まない人」がすべての世代に存在する。また、「望む人」が来年は「望まない人」に変わるかもしれない。地域というものは会社とは違う。常に変化し続けるものだ。ゆえに、過剰に期待したり要望することは避けなければならない。
特に日本の都市部は、高齢化だけでなく単身独居率が今後さらに増加する。いわゆる「社会的孤立」化する人が多くなる可能性が高くなる、と予想される。
この危機感は地域の皆さんが持っているものだ。ゆえに、もっと地域の方々が主体となって、「安寧な街」つくりをしようと動かないと、地域づくりは実現できない。
しかも、こういった地域づくりには、多くの知恵が必要である。また、リーダーやスーパーバイザー、ファシリテーターが必要である。簡単に「共助」「互助」という言葉だけで片付けないでほしいと著者は強く思っている。
これらは一朝一夕でできることはない。
だが、壊れるのは一瞬だ。
互助を進んでつくろうとする方がいる地域は本当に恵まれている。行政や施策などがリーダーシップをとっている地域もある。社会福祉法人にも、地域福祉の向上のために、「地域づくりの支援」を行うべきだという法人理念が本来はある。
だが、自分たちが生活する、もしくは働く、地域における「地域づくり」では、今後、もっと「人と人のつながり」を故意的に仕掛けていかなければならないだろう。地域づくりは、自然発生的には実現できないのだから。自分たちの周りの「人と人のつながり」を通して「互助」をつくっていくことが、「地域包括ケア」の根源である。
この仕組みが重層的に、かつ有益に機能すれば、「社会的孤立」を予防でき、「認知症になってもできるだけリスク回避できる地域づくり」ができるのではないか、と考える。
この記事を呼んだ読者の皆様が、「地域づくり」のファシリテーターとして、もっと積極的に活躍できるようになることを、期待してやまない。
最後に、今回の鉄道事故で被害に遭われた方、及びその家族の方々に心よりお悔やみ申し上げます。
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